苔むしる沢

八ヶ岳の苔むした景色は、ただの緑の絨毯ではありません。まるで時間の流れがゆっくりと進んでいるかのような、神秘的な世界が広がっています。
雨が降った後などは特に、岩肌や倒木にびっしりと生えた苔が、みずみずしい緑色を深めます。その様はまるで、森全体が呼吸をしているかのよう。一歩足を踏み入れるごとに、足元から苔むした大地がやわらかく、しっとりとした感触を伝えてくるでしょう。
苔は一種類ではなく、様々な形や色のものが混在しています。こんもりと丸いクッションのような苔もあれば、繊細なレースのような葉を広げる苔、あるいは星のようにきらめく苔も。これらが織りなす模様は、まるで自然が描いた芸術作品のようです。
霧が立ち込める日には、苔むした木々がぼんやりと浮かび上がり、まるでおとぎ話の世界に迷い込んだような錯覚を覚えます。八ヶ岳の苔は、この場所の静けさ、厳しさ、そして生命の息吹を私たちに感じさせてくれる、特別な存在なのです。